2012年 第3回 高校生の建築甲子園 審査結果発表 | 公益社団法人 日本建築士会連合会

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高校生の「建築甲子園」



高校生の「建築甲子園」

第3回 高校生の建築甲子園 優勝・準優勝

優勝
エントリーNo.15 山梨県立甲府工業高等学校「甲州ぶどう雁木通り」

準優勝
エントリーNo.25 滋賀県立安曇川高等学校「外来魚。~新しい地域のくらし~」


2012年 第3回 建築甲子園審査総評

審査委員長:片山和俊
建築家、東京芸術大学建築科名誉教授


楽しみにしていた建築甲子園。今年3回目を迎え審査会場に並べられた作品パネルを見ると、これまでに比較して表現が揃っているように感じられた。今までの経験や情報収集の成果と思われ、理解しやすく審査をスムースに進めることができた。大胆で個性的な表現が減って面白くないと言う意見があるかも知れないが、これをベースに自分たちの提案意図を、より鮮明に表現すれば鬼に金棒に近づくのではないだろうか。

今回の作品点数は増えて、全国の38道府県から集まった38点。提案内容をおおよそ分類してみると、重複はあるが5つ位のグループに分けられそうである。一番多かったのは1軒の住居を対象として、その性格に様々な要素を加味したもの。民宿経営、海や水という自然の中での立地、あるいは移住というテーマなどから住居が考えられていた。次のグループは大小住居群に農業や水路、坂、交流を絡ませたもの。共に住居から地域に繋げ、地域を顕在化させようという試みであった。そして3つ目は、今の日本の孤化する家族への危惧から、高齢者と若者の世代間交流やシェアハウスという住まい方の提案が見られた。が、いずれの提案も1軒1軒の内部の住まい方に工夫は見られたが、地域へ広がる視点を有することは難しかったようである。さらに傘や色彩、照明などによる装置的な提案が見られたが、イベント的な提案には一過性の弱さがつきまとい、対戦を勝ち抜く強さはなかった。やはり説得力があったのは、地域のひろがりや総体に取組み、そこから課題やイメージを膨らませた提案。単に伝統的な空間や形態、営みの踏襲ではなく、それらを踏まえつつ未来につながる仕組みや、地域へのひろがりを予感させる内容のものは強かった。

審査は各審査委員が、テーマの理解度、具体性、独創性と表現力の4点から各作品を評価し、例年のようにトーナメント形式で審査を進めた。11「小川に集うまち」に好感をもち、10「朔太郎の想い」は商店街と農との間に距離を感じ, もう一歩慎重さが欲しい44「地域でくらしたい」は、夫々準々決勝で、地域を捉えにくい東京・大阪など大都会から参加の14「川沿いの四季を楽しむシェアハウス」の着想の面白い提案は、準決勝で破れた。14は、土手内部を構成する住居群が羅列的で、川を挟んだ土手全体の断面表現が物足りなく、自分たちの発想にもう少し拘り、その場所らしさを豊かにできれば良かったのではないだろうか。惜しい。

勝ち抜いた中で優勝案は、当初印象はあまり強くなかった。何回か対戦するうちに提案に無理がなく、こうなれば面白い地域環境になりそうだと思わせられスルスルと勝ち抜いた。一方、準優勝案は外来魚ということば、キリッとした建築の形態、雪室を内包した魅力的な断面など、優勝案に匹敵する質をもっていたが、鮮明であるだけに周囲に広がる地域の住居や暮らしから浮かび上がっているように見え、次席となった。

そして審査委員長特別賞は、もっとも多かった住居提案の内から移住をテーマに掲げた案とした。過疎を逆手に取った提案で、1軒の家を木取りから考え、環境との調整から分棟にするなどアイディアに満ちており、かつその表現が素晴らしく、特別賞にしたいと思わず宣言してしまった。

今回の審査会は新しい審査員を迎え緊張気味に始まったが、例年のように対戦を進めるうちに、各提案への理解が進み活発な議論を経て、自然に判断が固まったことを最後に報告しておきたい。

2012年 第3回 高校生の建築甲子園 優勝

エントリーNo.15 山梨県立甲府工業高等学校「甲州ぶどう雁木通り」

監督/男性 選手/3年男子3名

この計画の一番の魅力は分かりやすいことである。

昔は養蚕のために「突き上げ屋根」形式の民家が生まれたが、その民家群の町の歩道に当たる部分に、ぶどう棚を掛け「ぶどう棚雁木」による心地よい日影を作ろうというもの。新潟県高田の雪国の雁木にヒントを得て、地域のぶどうを育てることを町の空間的な構成に利用しようとする試み。6軒に1カ所は山梨に残る助け合い「無尽」会などが行われる、ぶどう棚のコミュニティスペースが設けられている。

現代の集落構成は、敷地という私と道路という公に分かれており、その間の曖昧な関係の欠如が外部空間を魅力のないものにしている。ここでの提案は、そこにぶどう棚ゾーンという住民が提供する共の領域を持ち込もうとするもの。

加えてこの案によって、これまでぶどう棚はぶどう棚、道筋の空間は道筋の空間と分かれていたものが、一体に編み込まれた新しい地域の空間のひろがりとしてイメージできるようになった。こうすることによって新たな問題が起きるかも知れないが、現実化に向けて後押しをしたい計画であるに違いない。

おめでとう。素直で分かりやすい案で、空間体験を先行させる読む側に立った説明の構成もよかったよ。(片山)

2012年 第3回 高校生の建築甲子園 準優勝

エントリーNo.25 滋賀県立安曇川高等学校「外来魚。~新しい地域のくらし~」

監督/男性 選手/3年男子3名

滋賀県高島市マキノ町は、琵琶湖湖岸にあって四季の変化が美しく、名所や旧跡の文化と里山の風景を残した、農業・漁業・林業を営む地域。そこに琵琶湖漁業や生態系に歪みを生じさせる外来魚の問題が生じ、県は大掛かりな外来魚捕獲駆除に取組んでいるという。その一方で害魚として排除するだけでなく、食育による外来魚利用を指向するなど、琵琶湖地方に昔からあった「つくり育てる漁業と漁業者の育成」に取組んでいく、その中心となる拠点施設計画を提案した。新しい地域のくらしを発想したところがいい。

湖岸に建つであろう建物の構成が明快で、水平線の広がる湖岸の風景の中にキリッと建つ姿を想像すると、上記の意図と仕組みをリードしていくに相応しい、頼もしい姿が目に浮かぶ。特に図面の真中に置かれた断面は、一方が湖水、他方が陸上で、この建物の中で行われる仕組みが明快に表現され魅力的である。

トーナメントを順調に勝ち進んだが、この拠点施設の構成が明快であるだけに、周辺に広がる住宅や営まれる暮らしとの距離が気になるとの指摘があり、残念ながら決勝戦で破れてしまった。とは言え、例年素晴らしい作品をまとめてきており心からの讃辞を送りたい。再びのリベンジを期待しているよ。(片山)