2012年 第3回 高校生の建築甲子園 ベスト8 | 公益社団法人 日本建築士会連合会

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2012年 第3回 高校生の建築甲子園 ベスト8

エントリーNo.21 〈審査委員特別賞〉:三重県立伊勢工業高等学校「移住者の家」

監督/女性 選手/1年女子1名、男子1名、2年男子1名、3年女子1名

小さくて静かな計画をここまで高めたことを何よりも評価したい。対象の町の80%が山村で、林業を主として平坦地で農業を営み、人口の半分が65歳以上の過疎地域での提案である。

ところが何故か所帯数が増えていることから、過疎化対策の「空き家バンク」制度の存在を知り、そこから計画を発想し組立てたもの。建築面積を押さえた安価な新築を意図して狭小住宅を発想し、1本の木からどれだけの建材が取れるかを検証するために具体的に木取りを計画する一方、自然環境の中での気持ちのよい家のあり方を考え4棟の分棟としつつ、天井裏に展望部屋を取るなど、単なる小さな箱にならない工夫を施している。しかも移住者家族が孤立しないように、わさび田でわさびを育てる仕事を用意して地元の人たちとのコミュニケーションを図りやすくするなど、計画は緻密で用意周到である。

そして何よりも図面表現が的確でいい。はじめは見過ごしていたが、1回目についたら引込まれたしまったと白状しておこう。老婆心からだが、このうまさが将来大きく育って小さくまとまらないよう祈っている。(片山)

エントリーNo.10 群馬県立前橋工業高等学校「朔太郎の想い」

監督/男性 選手/1年女子1名、男子1名、2年男子2名

群馬県南部にある前橋市において、近年の経済社会情勢の変化を受け、その中心市街地が衰退していくことへの危機感を持ち、ある商店街を対象にして、同市のキャッチフレーズである「水と緑と詩のまち」にふさわしい地域として再生しようとする提案である。提案は5つの構想からなり、1.商店街の通りに「緑農ベルト」を創り、空き店舗を「農の間」を持つ店舗に改装し、農を活かした再生を図る。2.広瀬川の清流を商店街に引き込み、「緑農ベルト」を維持し、親水性を高める。3.生糸や繭をイメージしたデザインを織り交ぜ、「生糸のまち」の息吹を継承する。4.商店街通りに暗い印象を与えているアーケードを、蔦の日除けと「かしぐね」風の風除けにより再生する。最後に、前橋出身で詩人である萩原朔太郎の想いに心を通わせている。

前橋の歴史を江戸時代から俯瞰し、空っ風に対する屋敷林「かしぐね」、生糸の一大生産地、大正時代の近代詩人など地域固有のキーワードを見つけながら、現在、地方都市が抱える中心市街地の活性化に向けた積極的な提案である。また、朔太郎の横顔や風神雷神をデザインに取込み、目を引く作品に仕上げている。

農緑ベルトやアーケードの緑化の維持管理は、実現する上での課題が考えられることから、さらなる研鑽を期待したい。(高橋)

エントリーNo.11 埼玉県立春日部工業高等学校「小川に集うまち~地域産業の継承~」

監督/男性 選手/3年男子1名

埼玉北西部 秩父の山間部、荒川上流の地域において、過疎化による伝統技術の継承が危惧されるなか、地域の暮らしと特産物を通じた体験を通じて地域再生を図る小さなまちの提案である。 川のほとりで営まれる地域産業(店舗・畑)と山間部の日常的な住まいの具体的な使われ方や技術継承までのストーリーに加え、これら全てをつなぐ道をパブリックスペースとして位置づけ、一体化されたまちが問題の解決を図っていくという点について評価したい。また、計画背景の地域で抱える問題点の整理と地域性の調査分析が文章と写真で示され、発想のポイントを①環境整備、②商業・産業体験、③住まいの配置、④動線計画、⑤空間構成という5つのダイヤグラムにて丁寧に説明。中央に配された全体計画では、今回の趣旨が一目で伝わる大きさと色づかいで表現されています。さらに模型写真で空間構成が示されるなど、表現にも抜かりの無い力作だと感じました。

ベスト8にて初期から注目の集まった最強豪校との対戦であったことが残念でならないが、着眼点から問題分析、解決提案、表現方法に至るまでトータルバランスのよい作品であったことは間違いない。来年以降の応募作品にも期待します。(関)

エントリーNo.14 神奈川県立神奈川工業高等学校「川沿いの四季を楽しむシェアハウス」

監督/女性 選手/3年男子2名

長屋のような低層共同住宅。河川としては、直線的すぎる場を選定したのはいかがだったか。もう少し曲がりくねった「自然」をイメージする「場」でも良かったのではないか。数ある応募作品の中でも、相当の力量のあるものを感じた。 それは、公共空間の施設利用といった意味では、都市においての共同空間にヒントを与えているということである。高速道路や鉄道の橋げたの下などの今後、活用の方策を考えるエキスも入っているということである。

あえて、力量のある作品という前提で以下をコメントしておきたい。

それは、発送は良いのだがプランが画一的。丁寧なプランが望まれる。同じプランばかりでなく、バリエーションがもっとあればもっと楽しい。より、魅力的な作品のためには、より、魅力的な断面すなわち構成がわかる全体的な横断面が欲しかった。書く事によって見えてくるものがあったと思えるのだが。模型には、草木が茂り、豊かな自然景観をつくり出しているようだが、建築の断面図には、その表現がない。「川沿いの四季を楽しむ」という中の重要な要素である「自然」を明確に表現して欲しかった。大きな床几は季節を感じ得るにはすばらしい装置であるが、一方では、河川の氾濫等の危険も持ち得ていることを忘れてはいけない。安全と危険は背中合わせの側面的なことも提案欲しかった。(森崎)

エントリーNo.44 大分県立大分工業高等学校

監督/男性 選手/3年女子1名、男子7名

「地域で暮らしたい しかし、地震が、津波が・・・そこで僕たちの決断」 2011年3月11日の東日本大震災における大きな被害状況の記憶はまだ新しい。その中で今回のコンペでは、本提案が唯一「津波」をテーマとして取り組んだ事例である。本提案は、自分の地域の特徴を把握し、津波被害の発生する可能性のある海から約3kmの敷地を対象としている。提案では、大きく3つ、「津波を逃がす」「津波を潰す」「津波を分散させる」というキーワードをもとに、各キーワードに即した具体的な対策提案をそれぞれ考えており、敷地に対する建物の配置などの工夫がなされている。規模の大きな津波の威力に対して本当にこの提案で流れを誘導できるか、など課題はまだ残るが、「津波」という大きな課題について建築の立場としてできることを考えている提案である。さらに、子供や高齢者を含む避難経路についての提案もあり、各人が考えなくてはならない身近な問題にも目を向けている。様々な視点から考えている提案であるが、一つの敷地内のみの提案になっているのが、残念である。一つの区画だけではなく、もう少し周りも含んだ地域としての複合的な提案であると、より良いと思う。(永井)

エントリーNo.45 宮崎県立日向工業高等学校「やぐらのある暮らし」

監督/男性 選手/3年男子3名

日本古来からの建造物である「櫓(やぐら)」に注目した作品である。文献によると、木材などを高く積み上げた仮設や常設の建築物や構造物で見世物小屋や相撲、祭りの太鼓櫓・火の見櫓などの物見櫓等のものが一般的である。

テーマはすばらしく、刺激的なものなのに、地産地消の漁師の家である平面図がつまらない。ピアノや車など情報基地としての意図が平面に表現出来ていない。「模型の木」による建築造形は良。発想の豊かさや造形に対しての力量は目を見張る。しかし、建築空間を表現するには、今後の努力を期待したい。それは、櫓たる木材の積み上げや暫定的な「家」とそこにすむ漁師の生き様(普段の生活/漁師はここにサラリーマンのようには住まないだろう。)を想定して頂きたかった。これらを思い浮かべる時、平面図は変化するはずである。また、方法としては、漁師の存在する「海」とそれを育む背景としての「森」の関係からのアプローチもあった。しかしながら、櫓は船の「ろ」意味も持つというのも漁師の家としたのに興味が持たれた。がんばってください。(森崎)