2015年 第6回 高校生の建築甲子園 ベスト8 審査委員長特別賞 | 公益社団法人 日本建築士会連合会

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2015年 第6回 高校生の建築甲子園 ベスト8 審査委員長特別賞

エントリーNo.21  三重県立伊勢工業高等学校 「「常若」と「しめ縄」」

選手/男子2名、女子0名

自分の身の回りに着想を得て具体的な計画へと組上げた、こだわりの作品である。その過程に私的な思い出と手技を織り交ぜて、小さな計画の中に地域の生業や文化への奥行きを込めているところがいい。一方に地元伊勢にある“常若”という考え、祖父から教わったしめ縄作り、それを利用して作る風と光が抜けるパーティションの提案を語り、もう一方に住んでいる町、空家となった蔵を、不便な鳥羽・志摩からの通勤通学者対象の宿泊施設に利用するという町再生へのシナリオを語る。その2面の交点に空家活用の提案を語り、説得力がある。更に空家をセットで捉え、その単位がやがて増えて町に広がるという展開も自然である。計画の組み立てが手技と実空間からであり、表現も具体的で暖かく分かりやすい。最小単位を対象としながら、町や地域文化への視野が感じられる優れた提案にまとめられ、審査委員長特別賞に相応しい作品である。よかったよ。惜しむらくは、河崎の位置や環境をもう少し具体的に示して欲しかったこと。離れた人たちに町の姿や息吹、計画地との関係をキチッと伝えることも大切である。そして説明文の文字が小さい。視覚的な表現が工夫されている割に読みにくく、理解に手間がかかったと付加えて置きたい。(片山)

2015年 第6回 高校生の建築甲子園 ベスト8

エントリーNo.2-①  青森県立青森工業高等学校「奨学金と年金をつなぐシェアハウス」

選手/男子2名、女子0名

空き家特有の暗い・汚いを払拭(塀や樹木を除去)することで、閉鎖性の強い空間から開放空間へと改良されている。また、シェアしている住民、すなわち、学生の収入源としての活用空間(ビジネスルーム)の増築によって、外部へ洩れる「夜間のまち灯り」としての効果も高めている。しかし、ビジネスルームの活用として様々なアイディアが提供されているが、空間の構成を変化させなければ成り立たない、すなわち、工事等を伴う変化が不可欠な提案となっている。空間を工事等を伴わなくても、多目的に使えるものに限定し、生活のストーリーをイメージできるようにしておけば更に、良かった。また、外部空間である敷際にも「提案」が欲しかった。北、東側の隣地とのスキマは、どうなっているのだろうか?西側に描かれているベンチ(ビジネスルームのくぼみ)は、どんな場面がイメージしているのだろうか?さらに、敷地西南角のショートカットが意味する「オープンスペース」は、まちにとって何が良くなったといえるのだろうか?など。もう少し、内部への提案に裂いた時間と同様の考察があったらと思える。とにかく、ベスト8。おめでとうございます。(森崎)

エントリーNo.10  群馬県立桐生工業高等学校 「再生~古民家と街歩きと桐生織~」

選手/男子3名、女子0名

今回の建築甲子園に出展された作品の中でも、一二を争うほど詳しく調査・研究されているのがこの作品だ。桐生工業高等学校生徒諸君の力の入れ具合がこの作品から伝わってくる。今大会から少しテーマが変わり「~空き家を活かす~」という一文が加わったこともあり、身近に重伝建地区がある桐生工業高校には、少し有利なテーマであったかもしれない。調査は、桐生の歴史から始まり、地域の建築文化、建物の現況調査したものを3D図面に起こすまで事細かく記されている。その結果をもとに、母屋はそのたたずまいを活かし料亭に、織物工場は大空間を活かしフードコートにコンバージョンする計画となっていた。綿密に検討されているため、計画が現実的でかつ実現性が高そうに感じた。また、3Dで表現されているのでイメージが伝わりやすくなっていた。しっかりと調査・研究されているので、建築甲子園の中ではいいところまで難なく勝ち進むことができたのだろう。実際、実務で改修計画を立てる場合にも、建物の現況調査やバックグラウンドをより詳しく調べておいた方がいいというのは言うまでもない。しかしその反面、作品としては情報量が多すぎて何が一番伝えたいことなのか分かりにくく、頂点に立つのが難しくなっている。ここが今後の課題だろう。(関口)

エントリーNo.25  滋賀県立安曇川高等学校 「私たちの町の通学路」

選手/男子2名、女子0名

JR安曇川駅から学校に至る通学路沿いに点在する空き家を部活のクラブハウスとして活用する提案である。地域在住の食(中華料理)、織物(高島ちぢみ)、工芸(高島扇子、毛筆)の職人(マイスター)の方々の仕事場としても利用してもらい指導を仰ぐといった内容である。地域に伝わる技術や伝統の継承を部活動として取り上げる提案は興味深い。若い世代の流出、住民の高齢化、商業施設の撤退等の問題を抱え、地域活性化に苦戦する自治体は多い。作者の提案によって空き家が有効に活用され再び町の活気を取り戻すきっかけになれば有難い。上空からとらえた町の写真は現在の状況がよく分かり説得力がある。卓越したスケッチパースは審査員の目を楽しませてくれたが、建物の平面図等図面が添付されていれば、より高い評価が得られたであろう。(廣瀬)

エントリーNo.30  和歌山県立和歌山工業高等学校 「路地力溢れる長屋」

選手/男子6名、女子2名

和歌山、いや、今や日本の共通した課題、「空き家」と「防災」をテーマにし、その対応策の手だてとしての「路地」での活用を考察した「案」である。空き家マップにあるその数の多さ。災害が起こったらどうなるんだろうかと思える複雑な「路地」。その狭さと密集性が「たまり」を求めた結果なんだろう。着目したコミュニティが育って行くための必須な条件、人と人の緊密性に着目したすばらしい提案である。非常時に使用するには、平常時の行動と同じように活用(普段から使う空間)していなくてはならない。ということも提案されている。残念なことがある。1階と2階が逆であったらと思えることである。不思議なのは、1階東側(玄関近く)にある居間と台所は何故ここにあるのだろう?観光案内所の機能が2階というのは、利用する観光客にとってどうなんだろう。2階での中央部のデッキテラスは、路地との連携やポケットパークとしての役割を担わせるなら。また、多目的スペースの(相談や高齢者への)利用を促進させるためにもという意味でも、むしろ、1階で考えた方が良かったのでは。これらの事柄からみても、1階と2階を逆にしてみると解決するのではないだろうか?少し、残念だったものの「社会性」がよく考えられた提案でした。(森崎)

エントリーNo.34-②  広島県立広島工業高等学校 「予測不可能なディスタンス(人と人の距離)」

選手/男子2名、女子1名

本提案は、具体的な場所を設定し、既存の柱梁をそのまま利用するコンバージョンのアイデアで、すぐに適用できるような現実的な内容になっている。コンセプトには、旅人などの来訪者をイメージし、「カフェ」、「森」、「宿泊」というように交流ゾーンと宿泊ゾーンを分けて計画している。宿泊では、コンテナを利用し、わざと軸をずらすことで、“予測不能“を表現している。様々なところから来訪する人達の宿泊場所を森の奥に設定し、コンテナの位置をずらし、目線があわないようにくふうしているところは、宿泊者にも「静」と「動」を含めた安心感を与えることから、評価できるところである。 欲を言えば、立地が海に面しているところ、またすぐわきに公園があることから、公園とのつながりや、海とのつながり方についての提案があるとさらにその地域ならではのアイデアにつながっていくのではないだろうか。全国様々な地域で使われなくなった倉庫などの利用方法として、眺望の良さなどを利用して、一般的なカフェやオフィスだけではなく、宿泊場所も含めた提案は今後の参考になるであろう。(永井)

エントリーNo.38  愛媛県立松山工業高等学校 「夢を叶えられる船倉」

選手/男子2名、女子0名

船倉を風上に、風下に住居を配置するというこの地域特有の建物の形式を活用した作品。その船倉と住居の間のスペースには、「あさじり」と呼ばれる畑がある。この畑の規模は不明だが、おそらく想像するに、家で食べるため作物を育てるいわゆる家庭菜園だろう。船倉にはさし掛けが設けられており、この取り付け方であさじりや住居への潮風の影響を受けないように工夫されている。地域の風土に合わせて工夫されてきたこれらの住居も時代の移り変わりとともに空き家となってしまった。この住居を活かし、「夢を叶えられる船倉」としてI・Uターン者の創業を支援、そして三崎町の魅力を対外に向けてPRしようというのがこの提案である。今回は具体案として4つあげられているが、それ以外にも、この船倉を活かした地域創生につながるようなおもしろいアイデアをいろいろ考えられそうだ。そういう広がりを感じさせてくれるところがこの作品の良かった点である。強いて言うならば、移住者を中心としたストーリーで将来の理想像がわかるような内容が描かれていたら、もっとこの作品の世界に引き込めたのではないかと思う。十分優勝が狙えた作品であったと思う。(関口)