2014年 第5回 高校生の建築甲子園 ベスト8 | 公益社団法人 日本建築士会連合会

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2014年 第5回 高校生の建築甲子園 ベスト8 審査委員長特別賞

エントリーNo.1  北海道名寄産業高等学校「一致団結」

選手/男子4名、女子0名

古代を思い起こさせるような計画である。テーマ自体が“一致団結”であり今どきはやらない表現だが、そうは言っても町や商店街に、地域に活性化をもたらすには個々の力だけではどうにもならない。一致団結以外にないと言い切るいさぎよさが計画の強さになっている。

かつての賑わいを名寄市の街に取り戻したい。その一念から、夏祭り、盆祭り、雪祭り、アスパラ祭りなどの大きなイベント時に人の賑わいがあるならば、大小のイベントを増やし、賑わいに相応しい街、賑わいが連鎖するような街に構成を変えていけばいいと発想し、“祭り長屋”の提案がなされた。作り方は中国南部の伝統民居の三合院形式に似た、人を迎え入れるような構成を模索した。そして各所に望楼が築かれ、街を眺め祭り囃子が近くに遠くに聴こえてくるような街の計画案が生まれた。

現代の大都市には広い空がない。街のくらしを結びつける音もない。騒音雑音、音は邪魔者と化して久しい。この計画には広大な大地と開けた天空があり、人や地域を結びつける眺めと音がある。忘れられた古い方法が、ここでどっこいその常識を打ち破っている。諸手を上げて審査委員長特別賞を送る。(片山)

2014年 第5回 高校生の建築甲子園 ベスト8 教育・事業委員長特別賞

エントリーNo.29  奈良県立奈良朱雀高等学校「奈良秋篠 エコビレッジ」

選手/男子4名、女子0名

皆さんは銀河鉄道の夜の作者として知られている宮沢賢治をご存じだろうか。岩手県で農業を中心とした文化を創設するために一生をささげた人物である。37年という短い生涯のなかで、多くの文学作品のみならず農業関係事業にも足跡を残した。この作品を審査していて宮沢賢治が心に描いた理想郷イートハーブと重なるものを感じました。この作品は最近顕著になって来ている大気汚染、水質汚染、土壌汚染といった自然環境破壊に対して、使うもの、食べるものはできるだけ自分たちで生産する地産地消型の生活形態をとり、又敷地に建てられる施設は自然素材を材料とする伝統的木造工法で建設する等、環境に負荷のかからない持続可能なエコビレッジの提案をしている。その上少子高齢化、人口減少、地域経済の振興といった社会問題に対しても考慮しており、地域支援センター、コモンハウスといった建物がデイケア―、老人介護、子育て支援に係る施設として提案されている。多くの配置図、平面図が描かれており力作と言えるが、施設の中で生き生きと生活する住民の姿が感じられる描写や表現があれば、もう一つ上の賞が授与されたであろう。(廣瀬)

2014年 第5回 高校生の建築甲子園 ベスト8

エントリーNo.2
青森県立青森工業高等学校「学生シェアハウス+アンテナショップ「青森屋」 全国展開プロジェクト」

選手/男子4名、女子0名

最近なにかと話題の、いわゆる「東京一極集中」問題を取り上げたのがこの作品だ。政府はこのほど、内閣の重要課題である「地方創生」の実現に向けて、この東京一極集中を是正するなどの総合戦略をまとめたが、その具体策についてはまだまだ未定のようである。この作品は、地方創生に向けて自分たちの生まれ育った地元をどうにかしないといけない、という思いからできてきたようだ。ここに提案されている地域のくらしをまもるためのアイデアがなかなかおもしろい。青森といえばリンゴ。彼らは、そのリンゴの木箱をモチーフにしたシェアハウス兼アンテナショップの全国展開を提案している。シェアハウスは、全国各地へ散っていった進学者の住居として、アンテナショップは、その進学者たちが学業の合間にアルバイトをする働き先として利用できる。アンテナショップで売るのは、もちろん地元の文化と特産品。ここで働くことで、地元の活性化に貢献できるとともに、普段はなかなか気づくことのできない故郷の良さを再認識できるいい機会になるに違いない。青森を全国にアピールするアイデアとしては、かなりいい仕上がりとなっていたが、「地域のくらし」というテーマの中では、他の作品と並べたときに少しぼやけて見えてしまった。(関口)

エントリーNo.15  山梨県立甲府工業高等学校(定時制)
「温室のある暮らし~ハウス果物を農家の人と共に作る~」

選手/男子1名、女子0名

建築甲子園—2013年「準優勝」、2012年「優勝」の強豪校である。 初見時、今回も圧倒的な力強さで我々審査員に迫ってくるものがあった。 2014年2月の雪による大規模な被災から、異常気象という全国どこでも起こりくる問題をベースにしている。この被災を逆手にとって、より豊かな生活空間の充実をはかるべく考えられた「ガラスハウス」。このガラスハウスによってもたらされる近隣の人達とのコミュニケーションなど。地域の風景も写真や模型によって、その美しさが見える。また、図面も断面図においての表現も、建築の内部を心地良くかんじられるものとなっている。もう少し深く提案して欲しかったが、社会的に問題視されている「空き家」の対策にも一石を投じている。この点も評価したい。マイナス点はほとんど見かけられないが、改善すればもっと良かったと思えるのは、画一的なデザインに終始しているガラスハウスと建築デザインの表現。地域の暮らしの営みが垣間みられるシーンがあれば、「優勝」という文字もあったかも知れない。残念ながら、優勝した作品に対戦し破れた。優勝作品は、自然のめぐみともいえる地形を立体利用した空間が作られていたこと、地域を持続させる力を持っていたこと何より「差」が出たのは、生活者の営みを見たくなることを感じさせるほどの表現力だった。次回に期待したい。(森崎)

エントリーNo.21  三重県立津工業高等学校
「花火職人が繋ぐ同郷の家~帰る故郷をなくさないために住まいにできる役割~」

選手/男子3名、女子0名

林業を生業としていた美杉町では、住民が仕事や生活の便利さを求めて町を出て行ってしまう過疎化が問題となっている。この作品はそんな出て行ってしまった住民を呼び戻す施設として提案されている。宿泊施設として非血縁家族の住まいがある。難解な表現だが言い換えれば、地元を離れ美杉町に住む場所を失ってしまった元住民同士が同じ宿泊施設に泊まるのである。古民家を利用した家族用の宿泊施設もある。メインの施設として花火職人の作業場と打ち上げ場を設けている。単なる花火工場ではなく特別な行事が行われる神聖な場所のようにも見える。施設の形状から音楽会、演劇など野外劇場にも使用できるのではないだろうか。お祭りの出し物は手筒花火である。花火職人という意外な人物を登場させることが、美杉町に住む人、外から帰って来た人を結びつける施設とは共通性のない思いつきの世界のようにも見える。しかしながら力強く描かれた図面がそうした疑問を一掃してくれる。祭りの日には同郷の人たちが一同に集まって美杉町の良さや将来を語り明かすのだろう。再び活気が戻り美杉町に住民が戻ってくることを作者は願っている。(廣瀬)

エントリーNo.38  愛媛県立松山工業高等学校「猫と青島と借りぐらし」

選手/男子4名、女子0名

大須市長浜町長浜港沖13kmにある面積0.49km2の小さな島に着目し、現地の実態調査を行った結果、島民10名に猫が200匹という環境で、さらに1日2便しか出ない船に猫との交流を求めて足を運ぶ人達を目の当たりにし、猫と島を切り口に青島に住む人たちの場の提供を目的とした提案である。現在の島の状況を活かし、空き家の有効利用をしながら、島に必要な飲食店や売店の設置を新しく住む住民の仕事として提供する町並みだけではなく、事業までを含んで考えている点に課題は多いが、考え方として感心した。全体計画として、学校跡地や空き家、コミュニティセンター、船乗り場、キャンプ場の関係をどのように配置し、観光エリアと新しく住む住民達とのプライベートやコミュニティのあり方をもう一歩踏み込んで提案があるとより良いと思う。

暮らし方として、SNSを取り入れるのを条件としていることが面白いが、高齢者などへの対応もあわせて考えられると新しい住民の想定できる年齢幅が広がるのではないかと思う。(永井)