番号:【2013.05-008】
情報:鉄筋コンクリートについて考える(ひびわれ・配合・強度)
発信:建築技術等部会松岡浩一(エスティーアール構造設計)
20世紀に花が咲いた最大の構造体は鉄筋コンクリートではないかと思う。
鉄筋とコンクリートが一体となりそれぞれの欠点を補って、現代では必要不可欠な構造体としての存在感がある。
建築物のなかで鉄筋コンクリートを使用しないことは殆どあり得ないといえる。
木造であっても鉄骨造であっても基礎は鉄筋コンクリートを使用しているのが通常となっている。
この鉄筋コンクリートにおいても設計施工に絡んだ問題点がいくらか存在している。
一番多く耳にすることは、ひび割れ(クラック)の問題である。
建築主の多くは鉄筋コンクリートにおいて、ひび割れが発見されると、この建物の安全性は大丈夫かと疑念にかられる。
ひび割れの無いコンクリートの設計・施工は建築工事の大きな課題でもある。
理論上でひび割れの発生しにくい配合をしても、施工時の打設を考慮すると、扱いにくくて採用されないケースが多い。
扱いにくい(ワーカービリティが悪い)コンクリートを採用すると、打設部に空洞が出来やすく、空洞が大きいと重大な強度低下を招き設計時の強度が保証されない。
ひび割れの最大原因は配合時の余剰水である。
コンクリートの強度を決定付けるのは水セメント比説が有力であり、配合時の水を減らせば強度が上がりひび割れが減少する。
水セメント比説の理論ではセメントが硬化するための水和反応で必要な水はセメント重量の約45%程度と言われている。
45%以上の水は余剰水であり、強度低下・ひび割れ発生原因となり、無用の長物である。
しかし、水セメント比45%のコンクリートは、生コンとしては硬すぎるので水を増やす傾向となる。
すなわち、理論上で水セメント比を45%以下にはできなく、また、鉄筋コンクリート標準仕様書(JASS5)で65%以下にしなくてはならない。
水セメント比45~65%の間で悩むのである。
配合において水は減らすが、流動性は低下させない様にしなければならない。
そこで登場したのが混和剤である。
これは化学の世界であり、各社が多種多様な製品を発表している。
コンクリートの流動性を増す方法として、大きく分けて二通りの方法がある。
一つはAE剤といって微細な空気の泡を発生させて流動化を図る方法である。
もう一つは水の表面張力を減らす方法である。
多くの混和剤は上記の方法を組み合わせている。
良い製品は抜群の成果を出す。
しかし、これで解決というわけにはいかない。
それはコストの問題である。
混和剤は一種の薬品である。
薬品は物量に対して高価であるイメージがあるが、混和剤もそのイメージ通りである。
使用する場合は、あらかじめ設計図書に明記しておかないと、追加費用が発生し、予算が足りない場合は使用できない。
最も、安価な混和剤は仕様書になくても使用されている。
これは、混和剤を使用することにより配合時のセメント量が減らせて安価になる為である。
ひび割れを減らし流動化も良くする混和剤は高性能のもので、いわば健康保険適用外の薬剤のようなものである。
ひび割れに対して大きな誤解があるのは、鉄筋コンクリートでは、ひび割れがダイレクトに強度低下と結びつかないことである。
部材の強度は大きく分けて、軸強度(圧縮と引張り)・曲げ強度(湾曲に対しての抵抗力)・せん断強度(ズレに対する抵抗力)の3種類である。
鉄筋コンクリートにおいて鉄筋とコンクリートのそれぞれの主な分担は、圧縮がコンクリートであり、引張りが鉄筋で、曲げとせん断は協働分担である。
ひび割れの大半は生コンクリートの乾燥収縮によるものであり、水分を減らす配合設計とコンクリート打設後の養生をよくする事で一定の成果が得られる。
鉄筋コンクリートの設計においてはコンクリートの引張り強度を無視しているので、ひび割れがあったとしても、直ちに強度低下が問題になることは少ない。
しかし、ひびわれが発見されると建築主の大半は強度低下を心配し大騒ぎになることがある。
この場合は、ひび割れの原因を究明し、今後の進行の可能性と補修の要否を丁寧に説明し理解を求める必要がある。
ひとつの目安としてひび割れ幅が0.3~0.4mmを超えると補修の対象と判断できる。
ただし、ひび割れが漏水に繋がる場合は、ひび割れ幅とは関係なく補修の対象となる。
ひび割れの原因が乾燥収縮の場合で幅が0.4mm以下で貫通していない場合は鉄筋の効果があるので強度低下が無いか、あっても非常に僅かと考えられる。
鉄筋コンクリートは強靭な構造体であるが、大地震時に崩壊した建物を見ると意外な脆さがある事が判る。
柱に対して斜め方向に割れるせん断破壊は脆弱な壊れ方で避けなければならない破壊形式であるが、最も怖いのは圧壊である。
圧壊は柱の圧縮強度が不足して一瞬に壊れ建物崩壊に繋がる最も忌みすべき壊れ方である。
実際には、地震時に柱に軸方向応力と曲げ応力とせん断応力が同時に発生していて複雑な壊れ方をするが、ここでは主たる原因を俎上にあげている。
鉄筋コンクリートでは一般的にはコンクリートで圧縮力を分担させているが、地震時のように短期的な場合は鉄筋にも圧縮力を分担させている。
鉄筋コンクリートでは鉄筋はコンクリート中に内蔵しているので座屈しないものとして設計されている。
しかし、この前提条件は実態に即しているだろうか。
極簡単に力学に基づいて検証してみると、鉄筋などの鋼材は細長比が30を超えると座屈しやすくなり、座屈の検討が必要となる。
力学のおさらいをすると、細長比は材長を断面二次半径で割った数値であり、断面二次半径は断面二次モーメントを断面積で割って平方根とした値である。
それぞれ記号で表すとλ=L/iであり、i=√(I/A)である。
鉄筋は異形鉄筋を使用しているのが大半であるが、ここでは計算が簡単になるように円形断面で考察する。
柱主筋の直径をdとするとI=π・d4/64,A=π・d2/4であるのでi=d/4である。
ここで柱主筋がD25ならばi=2.5/4=0.625cmであるのでλを30以下とするにはL=30×0.625=18.75cm以下としなければならない。また、D19ならば同様にしてL=14.25cm以下となる。(Lは座屈長で、ここでは帯筋の間隔)
従って、鉄筋の座屈止めの効果のある帯筋(フープ)は密に入れておかなければならないことが判る。
現在の建築基準法施行令で柱の帯筋は10cm以下とすることになっているが、昭和46年以前の建物では現在の政令と違っているので、20cmから30cmの間隔(ピッチ)となっている建物が多い。
帯筋はせん断補強の効果も合わせ持っているので昭和46年以前の建物は耐震性に問題がある可能性が高いといえる。
柱の帯筋が不足している場合の対処としては、炭素繊維・ポリエステル繊維等で巻く方法や鋼板で巻く補強方法がある。
この補強材は全て熱に弱い特徴がある。
しかし、火災と地震が同時になる確率は極めて低いので、問題にする必要は無いと考えられる。