会長挨拶 | 公益社団法人 日本建築士会連合会

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会長挨拶

三井所清典会長


2018 年 年頭所感

公益社団法人日本建築士会連合会 会長 三井所清典

あけましておめでとうございます。

新しい年を迎え、全国の建築士会の皆様と建築士の皆様に謹んでお祝いのご挨拶を申し上げます。

昨年は、全国大会が京都で「山とまちと木造建築」をテーマに、いわゆる川上から川下までをつなぐ壮大な企画が実践されました。12月開催にもかかわらず参加者も多く京都らしい大会となり、参加者の記憶に深く残ることでしょう。周到な準備と運営に尽力された京都府建築士会の皆様および近畿ブロックの建築士会の皆様に深甚なる謝意と心からの御礼を申し上げます。

今年は関東甲信越ブロックの担当で埼玉大会となりますが、埼玉建築士会らしい大会を期待しています。 すでに御存知の会員も少なくないと思いますが、昨年から設計、工事監理等に係わる業務報酬基準(いわゆる告示15号)の改正のための検討が、国土交通省のリードで始まっています。本会からも国の検討委員会に委員が参加しており、そこで有意義な意見を発信できるようタスクフォースを設け、建築士会連合会としての検討を並行して進めています。タスクフォースのメンバーは、設計事務所の規模別の意見を反映できるよう、大、中、小の事務所から参加してもらっています。さらに、日本建築士事務所協会連合会と日本建築家協会とも連絡をし、重要な部分の意見調整にも努めています。業務報酬の課題は多く、今回の改正だけで終わるものではないとの認識を深め、長期的に改善を進める必要を強く感じています。その意味でも今回課題だけはできるだけ多く抽出して、次回以降の改正に備えて意識的にデータを収集できるよう計らねばならないと思っています。 2万㎡を超える大規模建築や、規模はそれほど大きくなくても用途機能が複雑に混じっている建築の出現など、これまでの標準的な建築ではない建物が多く出現していたり、標準外と思える業務の扱いなど明確にする必要があります。最近は、発注側と受注側の作業が入り混じり、委託範囲あるいは受注範囲が不分明のまま仕事が発注されることもあります。

また、仕事場のあらゆるところで働き方改革が推進されています。設計事務所でも超過勤務の扱いや夜間・休日勤務の報酬の増加、産休・育休等の確保など、普通の企業並みにならなければなりませんし、ゆとりのある業務報酬、良質な設計を行うための未来への投資ができる利益もなくてはなりません。
優秀な若い人材が設計界に入りたいと思う魅力的作業環境も必要です。働き方改革は私たちにとって外圧と感じられるのですが実現すべき規制であり、よく理解した上で、15号改正に反映させねばなりません。今年は一般の設計事務所へのアンケート調査も行われますが、アンケートに当たった方は、以上のことなど十分配慮してお答え下さい。
建築士会では、建築士の皆様の技術の向上や業務範囲の拡大を期して各種の講習会を実施しています。

昨年新しく始めた講習会に既存住宅状況調査のための講習があり、今年も実施しますので、各建築士会の講習日に注意しておいてください。これは中古住宅のその健全さ、損傷や雨漏りなど欠陥の有無などを調査し、調査報告書を作成する業務であり、法的に建築士に限定された新しい業務です。報告書は不動産を仲介する宅建士に渡され、宅建士は買い手に報告書の内容を説明することが、重要事項として位置づけられています。
地域社会の中で建物の状況を理解している建築士がいることは、買い手にとって大変安心なことと思えます。建築士会では、既存住宅状況調査の講習考査修了者を対象に、さらに空き家活用に関する建築士の養成講座を今年から開始します。ここまでマスターした建築士は、既存住宅についての診断書と処方箋を書けることにもなり、本当に地域の住宅医のような専門家となって、地域住民に大切にされる立場となることでしょう。

ぜひ、2つの技術講習を修得して、建築士の新しい顔づくりと業務領域を広める機会にしてくださることを期待します。

資格に絡む講習として、監理技術者講習を建築士会連合会が推進しています。この講習は、建築の施工に係わる監理技術にすべての時間を割り当てているところが大きな特徴で、建築施工の熟練の人たちが作成したテキストを用いています。
基本から新しい技術まで、特に工事種ごとに失敗しやすい場面を取り挙げて、興味深い解説の指導が行われます。私は設計専門の立場の建築士が工事の内容や監理のポイントなどを理解して設計と工事監理を行うことの有益さを強く感じており、設計者にも受講することを薦めます。

資格とは関係ありませんが、総合図作成ガイドラインを3年がかりで作成し、昨年からDVD講習を実施しています。これは工事監理の熟練者と施工の熟練者が一緒に検討したもので、設計者と施工者の両方に有用な講習です。

中大規模木造設計セミナーは、文科省の木造校舎設計のためのJIS A3301をベースに、本会と中大規模木造プレカット技術協会が連携して作成したテキストを使って、民間建築にも適用できる技術講習を稲山正弘東京大学大学院教授に担当してもらっています。

紹介したい活動はたくさんありますが、最後はまちづくり委員会の新しい動きです。昨年、まちづくり委員会のもとに、景観、防災、歴史、福祉、街なか(空き家)まちづくりの5部会にそれぞれ部会長、ブロック代表部会員および各建築士会に地域担当リーダーを定め、部会ごとに活動が開始されました。現在は部会長からメールで発信されたアンケートに地域担当リーダーがメールで応えるという段階ですが、アンケートの応答が部会関係者全員に瞬時に伝わることが特徴で、一挙に情報が共有されます。中には先進的な活動の紹介もあり、とても刺激的です。この草の根的な情報の受発信が今後どのような発展を見せるか楽しみです。今後、新しい情報媒体による新しい活動の多様なネットワークから発展するさまざまなまちづくり技術とまちづくり文化が建築士会の中に育まれることを期待しています。