2011年 第2回 高校生の建築甲子園 審査結果発表 | 公益社団法人 日本建築士会連合会

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高校生の「建築甲子園」


高校生の「建築甲子園」

第2回 高校生の建築甲子園 優勝・準優勝

優勝
エントリーNo.13 静岡県立科学技術高等学校 「蘇る現代の宿場町」

準優勝
エントリーNo.19 滋賀県立安曇川高等学校 「WOOD MILEAGE 地産地消長屋の最初の一軒」


2011年 第2回 高校生の建築甲子園 審査総評

審査委員長:片山和俊
建築家、東京芸術大学建築科名誉教授


少し重荷ではなかったろうか。

今回の第2回建築甲子園に寄せられた35作品を見た時の第一印象である。第1回に較べ作品の表現レベルは確実に上がっていたが、全体におとなしく真面目な感じを受けた。キチッと考えて貰いたいのはやまやまだが、その一方でもっと大胆で元気溢れた作品を待っているようなところがある。今回の作品群の大凡の傾向は前者で、飛躍するには難しいテーマかなと反省が頭をかすめた。

考えてみればテーマの“地域のくらし”は、私たちの世代を含めて先人たちが築こうとして築けなかった問題が山のようにあり、それを若い高校生の諸君に託して背負わせようというのだから、“そんなの重いよ”と一蹴されても仕方がない。受け止めて貰えるだけでよしとしなければならないようだ。何しろ現在の日本は、地方に地域性があっても過疎化し経済環境がよくない。一方都会に賑わいはあっても、地域性やコモンが見えない状態。そこから応えて欲しいというのだから無理難題ではある。真面目に取組めば取組むほど、現実的に考えれば考えるほど夢を描きにくく、表現が地味になるのもやむを得ない。しかも今年は3.11東日本大震災があり、被災地は勿論、日本の各地で明るい未来を描くような気持ちにはなれなかったかも知れない。一瞬にして“地域とくらし”が破壊され痕跡すら見えなくなってしまった大自然の猛威に、立ちすくんでしまったというのが正直なところである。けれどもこの被災を乗越え、また何時くるか分からない猛威に立ち向かうには、やはり“地域とくらし”しかないことを改めて思い知らされた。そして無理難題と分かっていてもやってみなければ、先人たちの本当の苦労は分からないと思い返した。

さらにコンペティションは、初回に較べて2回目の方が難しいことも確かだろう。無手勝流と行かなくなった分、考えることが増えて慎重にならざるを得ないからだ。その上で作品を見直すと、自分が住む地域への愛して止まない思いと重い現実との間、その狭間にそれぞれに見出した高校生諸君の確かな問題意識と提案の数々が見えてきた。その中で勝ち上がった作品は、自分や自分たちの閉じた世界で終わるのではなく、地域への広がりや他への影響を与えることが期待でき、現実の小さな種から未来に向けて夢を描けるものであり、その鮮明さと強さが勝敗を分けたように思われる。

審査方法は昨年に準じトーナメント方式で行った。はじめに審査員がそれぞれ全作品の採点を行い、シード校を選び、抽選で対戦高校を決めて2校ずつ議論して勝敗を決めながら進めた。好敵手が早めにぶつかる不運もあったが、大旨順調に戦いが進んだ。終盤に近づき、昨年と同じように滋賀と静岡の闘いであることが分かり審査に熱が入ったが、今年は入れ替って静岡の勝利となった。まさに甲子園の熱戦のようであった。全体的に見ると若干東日本の方の作品に元気があり、西日本から四国・九州地方に勢いが足りなかった。理由は分からないが、これからの奮起を期待して待ちたい。

最後に昨年も指摘したことだが、平面図に色を使い過ぎる作品が目についた。空間には色がない。折角構成した空間的な魅力が、図面から読取りにくいので注意して貰いたい。もう一つの不満は丁寧な説明を心がけたためかも知れないが、文字量が多く文字が小さく読みづらい作品があったこと。共にコンピュータという便利な表現手段に縛られた弊害かも知れない。紙に打ち出された作品を少し離れて見た時に、見やすく理解しやすいように配慮するのも作品をまとめる基本的なセンスの一つではないかと思われる。

2011年 第2回 高校生の建築甲子園 優勝

エントリーNo.13 静岡県立科学技術高等学校 「蘇る現代の宿場町」

監督/男性 選手/3年男子4名

優勝おめでとう。昨年のリベンジを果たしましたね。

この案は東海道53次の宿場町であった歴史を手掛かりに、集まり暮らす小さな拠点を創出しようという試みである。たまたま別の場所で同種の試みがあることを聞いたことがあるが、当時それほどのイメージが湧かなかった。が、この作品を見てそういう切掛けが大事であること、人が集い暮らす空間がどんなに豊かで、夢を与えてくれるかを思い知らされた。単体の建築と群構成にメリハリがあり、この環境の中でどういう生活や振る舞いが行われるかが目の前に浮かんでくる豊かな内容が創出されている。そしてやや唐突に新旧というか寄棟の家と片流れの家を混在させ向き合わせる構成も、家並の統一感のためにはどちらかに揃えた方がと思う判断もありそうだが、混在させることによって現代を感じさせたところもいい。よくまとまった提案であり、最後に審査委員全員がはじめに一押しの選定であったことを付加えておきたい。

唯一の難点は説明文の文字が小さく長かったこと。決められた画面に、図面を大きく説明文も入れたいところからと思われるが、文字量を減らしても内容は十分に伝わったのではないだろうか。何よりも空間のコンペであることを忘れずに。(片山)

2011年 第2回 高校生の建築甲子園 準優勝

エントリーNo.19 滋賀県立安曇川高等学校 「WOOD MILEAGE 地産地消長屋の最初の一軒」

監督/男性 選手/3年女子1名

林業を主産地とする朽木地域に地産地消の長屋を建てる試みである。ウッドマイレージという視点からみると、日本が二酸化炭素排出量で膨大な消費を続ける一方で、地元の造林公社が破綻するなどの矛盾をかかえ、地産地消の必要性から発意したという説明には説得力があった。そして三角形を基本に構成した長屋の内外の空間には、集まって暮らす長屋の生き生きとしたくらしが感じられ、図面表現も豊かで、屋根裏になったり床下収納になったりする1.5階のような断面構成など“やるな”と思わせる箇所もあって、スイスイと勝ち進んだ。

決勝戦でもう一歩届かなかったのは、端的に言えば三角形という基本構造にあったように思われる。戦いが進み何回も平面を見るうちに、単位が小さく中心に家具を置くしかなく、角が殆ど使えていない状態が目につくようになった。増築すれば使えるようになるかも知れないが、単位空間にもう少しゆとりと自由さがないと単調さを補うことは難しい。残念ながら連続優勝とならなかったが、昨年に続いての秀作であった。今回の惜敗を今後に生かし、チャレンジする伝統を築いて貰いたい。おめでとう。(片山)